株式会社 協同病理
各種固定法
最終更新日:2019.12.25
!マーク 一般に、固定液は生物とその環境にとって何らかの有害性をもっています。
化学物質の取扱いには専門知識と安全な設備が必要です。
このページは利用者が化学物質の管理能力を有する前提で記述されています。
毒性 毒性 引火性 引火/可燃性 酸化性 酸化/自己反応性
(この表示は(社)日本試薬協会の旧選定基準を参考にしています。)

酸化性:可燃物と接触することによって燃焼や爆発する
自己反応性:単独で分解したり大きな反応熱を発生する
可燃性:点火源があると、空気等の酸化性物質と接触し燃焼する
※このページでは、容量(体積)は慣用単位で示しています。SI単位では 1ml (mL)は 1cm3となります。
また、固定液の処方には様々なバリエーションがあります。ここではその一例を示しているに過ぎません。

固定に際しての一般的注意事項
試料の切除には鋭利な刃物を用い、切除端に圧挫を生じさせないこと。
試料は自己融解のない新鮮な状態で直ちに固定し、決して組織を乾燥させないこと。
脂質の検出にアルコール系固定液が不適であるように、目的に応じて適切な固定液を選択すること。
過剰な血液や粘液、固い被膜で覆われた組織は固定液の浸透性が悪くなるので注意すること。
固定液は液体であるので浸透圧による障害や可溶性物質の溶出に注意すること。
試料に対して固定液は充分量(最低でも容積比 3倍量)を用いること。
組織は、固定液中の形状のまま固定されるので、組織の変形が起こらないように固定すること。
固定時間が過度に長期にならないように注意すること。(「過剰固定」とは固定時間の延長を言う)
固定により組織は硬化し弾力性を失うので、口の狭い容器中などでは固定しないこと。
固定により酵素活性や抗原性は影響を受けやすいことに留意すること。
一般に固定液には生物や環境に対して何らかの有害性があるものとして取扱いに注意すること。

Aldehyde系固定液
ホルムアルデヒド/パラホルムアルデヒド(PFA)/グルタールアルデヒド(GA)などアルデヒド基(-CHO)をもつ化学物質は蛋白間に架橋を形成して変性凝固させる性質があるので、特にホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンなどは昔から組織固定液あるいは防腐剤として使用されてきた。しかし、免疫組織化学や酵素化学においては、架橋形成によって抗原性がマスクされたり、酵素活性が阻害されやすいという欠点がある。また、多くの場合は低濃度の水溶液として使用されるため、固定が完了するまでの間に糖質や低分子量の可溶性物質が組織中から失われることもある。なお、蒸気も含め毒性が強いので注意が必要。
    
ホルマリン(ホルムアルデヒド)】 CH2O Formalin 劇物、労働安全衛生法(安衛法):第2類特定化学物質、化学物質排出把握管理促進法(化管法,PRTR法):第1種指定物質、国連番号2209 UN Hazard class 8(腐食性)
化学物質審査規制法(化審法):2-482、LD50:800mg/kg(rat経口)、融点:-92℃、沸点:-19.5℃、比重:0.815、MW:30.03

ホルムアルデヒドFormaldehyde(HCHO)は刺激臭のある無色の気体。水に易溶性で、その水溶液をホルマリンFormalinという。蛋白凝固作用があり、古くから防腐剤・消毒剤として利用されてきた。生物組織の固定に汎用的に用いられ、固定後に脱水してパラフィン包埋したものから薄切標本(Formalin fixed-Paraffin embeding:FFPE標本)を作製するのが本邦ではスタンダードな方法となっている。

いわゆる「ホルマリン」として入手できる薬品には3種類あり、試薬ホルマリンはホルムアルデヒドの含有量が37%以上あるが、局方ホルマリンは35〜37%でメタノールを10%程度含有している。消毒用ホルマリン(いわゆる「ホルマリン水」)は1%前後しか含有していないので固定液には適さない。特に免疫組織化学に用いる場合のホルマリンはメタノール残留量の少ない特級試薬が望ましい。

※ホルマリンは、工業的にはメタノール(CH3OH)を酸化して合成するので引火性物質であるメタノールが少量でも残留している。メタノールの影響が気になる場合は後述するPFAが用いられる。

(※時に「37〜40%ホルマリン」などと書かれてある文献を見かけるが、これは誤解のもとになる。正確には「37〜40%のホルムアルデヒドを含有したホルマリン原液」と言うべきであり、試薬ホルマリンを37%に希釈したものを基にさらに10%に希釈すると消毒用のホルマリン水並みになってしまう。)

有毒ガスを発生するので要密栓保存、禁加熱。冷却により混濁を生ずる。有毒物として取扱いには充分注意する。特定化学物質障害予防規則(特化則)により気中濃度0.1ppm(= 0.00001%)が作業環境の管理限界と定められている。
アルデヒドは酸化されカルボン酸になるので、古くなるとホルムアルデヒド(HCHO)が蟻酸 Formic acid(HCOOH)に変化する。酸化は光線により促進されるので長期保存は褐色瓶で暗所保管とする。
廃棄に際しては市販の処理液を用いるのが一般的であるが、簡便な方法として水酸化ナトリウムを加えてpHを上げてから水酸化カルシウムを加えて自然に縮合させる方法も用いられている。

10% ホルマリン固定液 毒性

ホルマリン原液 (Formaldehyde37%以上含有) 10ml
精製水 90ml
ホルマリン液を単に水で割っただけの簡単なものだが、昔からある組織固定液兼防腐剤。組織防腐剤として使うだけなら別に水道水で希釈しても良いし、濃度も10%〜20%まで適当でかまわないが、ホルマリン濃度の高い液に長期間浸漬したままにしておくと組織は収縮したり染色性が低下する。また、組織中の鉄などの金属を検出する際には水道水の使用は避けること。 組織固定用にはホルマリンは通常10%〜15%程度の濃度で用いられることが多く、この範囲なら多少アバウトでも大きな問題はない。高濃度だから固定が早いというものではなく、むしろ固定液が組織内部に浸透する前に組織表面が凝固収縮して硬化し内部浸透を妨げることになる。(天ぷらの油の温度が高ければ良いわけではないのと同じ理屈)

「ホルマリン」と「ホルムアルデヒド」は混同されやすいが、「10%ホルマリン」という場合には含有されるホルムアルデヒドの最終濃度を示すのではなく、単に試薬ホルマリン原液の10倍希釈液という軽い意味なので変に細かい計算は必要ない。10%ホルマリンに含まれるホルムアルデヒド濃度は約 3.7〜4%となり、「4%PFA」とほぼ近似値となる。 なお、UN2209に指定されているのは25%以上の「ホルムアルデヒド水溶液」なので、10%ホルマリンはこの国連指定の危険物には該当しない。(国内で陸送する場合には当然国内法が適用されるが、1tもしくは1m3もの10%ホルマリンを一度に輸送するようなことは稀で、UN2209表示のイェローカードが常に必要なわけではない。)

10% 中性ホルマリン固定液 毒性

[参考]緩衝ホルマリンとしばしば混同されるが、「中性ホルマリン」とは要するに10%ホルマリン液を褐色瓶に入れた中に充分量の沈降炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムなどを加え、一晩以上放置して沈殿させた上澄み液。単に水で10倍希釈しただけではおよそpH4くらいになるので、pHを上げただけものである。最近はリン酸緩衝ホルマリンが一般的で、これは現在ではほとんど使われていない。

10% 等張ホルマリン固定液 毒性

10%ホルマリン液または中性ホルマリン液 100ml
塩化ナトリウム 8.5〜9g
[参考]ホルマリン固定液は成分比率として殆どが水であるため、塩化ナトリウムや塩化カルシウムなどを少し加えて等張にしたもの。浸透圧による組織障害を防ぐ必要のある場合に用いる。それなら最初からホルマリンを生理食塩水で希釈すれば良いわけで、実際にそういう固定液(10%ホルマリン・生理食塩水液)が使われることもある。ただ、ホルマリン色素顆粒が析出しやすくなる。

10% 燐酸緩衝ホルマリン(Buffered Formalin)固定液 毒性

リン酸1水素(2)ナトリウム Na2HPO4 0.65g
リン酸2水素ナトリウム NaH2PO4・2H2O 0.4g
精製水 90ml
ホルマリン原液 (Formaldehyde37%含有) 10ml
免疫組織化学の普及とともに、今日一般に用いられている組織用固定液。単なるホルマリン希釈液はpH4くらいの酸性のため、リン酸緩衝液で希釈することによって pHを7.4〜7.6くらいにしたもので、「中性緩衝ホルマリン」(Neutral Buffered Formalin:NBF)と呼ばれることもある。したがって燐酸緩衝液のモル数にはあまり厳密こだわる意味はないし、リン酸水素ナトリウムの量も含水量によって変わる。(上記はLillieの処方)
免疫組織化学に用いる場合、Formaldehydeによる固定は抗原性を損なうのでpHを調整したものでも高濃度、長期間の固定は好ましくない。

その他の添加物入りホルマリン固定液
ホルマリン固定液は基本的な組織固定液として長い間使われてきた為、多くの人によって様々な改良・工夫がされてきた。基本的にそれらはホルマリンの希釈液をアルコール等に換えたり、または塩類など添加物を加えることであった。後者の幾つかを紹介すると、酢酸ナトリウムや臭化アンモニウム、塩化カルシウム、硫酸亜鉛(後述)などがある。

酢酸ナトリウム (CH3COONa) Sodium acetate、酢酸のアルカリ塩のひとつ。無水塩は白色の結晶性粉末、吸湿性、易水溶性、難燃性。化審法:2-692、MW82.03。
酢酸ナトリウム・ホルマリン固定液 毒性

無水酢酸ナトリウム 2g
10%ホルマリン液 100ml
酢酸を少し加えてやると固定効果が良くなることは知られている。また、肉眼資料として臓器などを長期保存する場合にも使われる。

臭化アンモニウム (NH4Br) Ammonium bromide、白色の結晶性粉末、MW97.94、吸湿性、水・アルコール可溶性、化審法:1-106。
臭化アンモニウム・ホルマリン固定液 毒性

臭化アンモニウム 2g
10%ホルマリン液 100ml
脳などの神経組織で鍍銀などを行う場合に良いとされている固定液。


塩化カルシウム (CaCl2) Calcium chloride、白色の結晶性粉末、吸湿性、易溶性、不燃性、MW110.98(2水和物で約147)、化審法:1-176。
カルシウム・ホルマリン固定液 (Baker固定液) 毒性

塩化カルシウム 1g
10%ホルマリン液 100ml
英文では Formal calcium fixative。脂質の染色に良いとされている固定液で、Baker(ベーカー)固定液とも呼ばれる。教科書的には無水塩化カルシウムを使うが、2水和物を使っても問題ない。また、文献によっては塩カルの添加量を倍量の 2gとしているものもあるので、要するに 1〜2%程度ならアバウトで良いということだろう。なお、塩カルは吸湿(潮解)性が強いので湿度計付の除湿庫で保管すること。

[参考] John R. Baker が Quarterly Journal of Microscopical Science, Vol.85(1944)に記載した固定液の処方はホルマリン 10ml:水100mlに対して塩化カルシウム 1gと共に塩化カドミウム(CdCl2, Cadmium chloride) 1gが含まれている。これを指して Baker's fixativeと称している文献もあるが、塩化カドミウム(MW183.32、化審法:1-199)は白色の結晶性粉末で毒性が強く、劇毒法で劇物、安衛法特化則では管理第2類物質とされている。発癌性、生殖細胞への変異原性の疑いもあり、実際上使用できない。


ホルマリン以外のアルデヒド系固定液

パラホルムアルデヒド (CH2O)n Paraformaldehyde 劇物、国連番号2213 UN Hazard class 4.1(可燃性固体)、化審法:9-1941、白色固体、常温で水に難溶、アルコールに可溶、LD50:800mg/kg(rat経口)、融点:121℃、引火点:70℃、発火点:300℃。加熱または水に溶解させるとホルムアルデヒドに分解する。

4%PFA (Paraformaldehyde) 固定液 毒性

Paraformaldehyde 4g
0.1M Phosphate buffer pH7.4 最終100ml
PFAは室温で溶解しにくく液は白濁する。少なめのbuffer中で60℃くらいで加温溶解(蒸気は有毒なので注意)させ、1時間程度(※)で透明になってから再度bufferを加えて全量を100mlに調整する。急ぐ場合は2〜4%程度(1規定液があればそれでも良い)の水酸化ナトリウム NaOHを僅かに滴下すると早い(最終的にpHを調整する)。
4℃で1〜2週間程度保存可。

PLP (Periodate Lysine Paraformaldehyde) 固定液 毒性

糖蛋白系の抗原(例えばCEAなど)用の固定液。ただし、糖鎖を過ヨウ素酸で酸化しアルデヒド基にするので糖鎖抗原やレクチンを対象とする場合には適さない。標準的な固定条件は4℃4〜6時間

0.1M L-lysine/0.05M phosphate buffer(pH7.4) 75ml
L-lysine塩酸塩 1.827g/50ml 精製水に0.1M Na2HPO4水溶液(4.42g/100ml)を加えpH7.4に調整後、0.1M Phosphate buffer pH7.4で全量を100mにする。4℃で1週間ほど保存可。

8%Paraformaldehyde(PFA)水溶液 25ml
PFA 2g/25ml 精製水を60℃で加温溶解し、白濁が消えるまで1N NaOH(4g/100ml)を滴下、冷却後濾過。4℃で2週間程度保存可。

NaIO4(メタ過ヨウ素酸ナトリウム)液 0.214g
0.1M Lysine液とPFA液を3:1に混合したものに加えて溶解する。使用時調整。最終濃度は0.01M NaIO4/0.075M Lysine/2% PFA (pH6.2)となる。

グルタールアルデヒド C5H8O2 Glutaraldehyde(ペンタン-1,5-ジアール Pentane-1,5-dial,1,5-Pentadione) 国連番号2810 UN Hazard class 6.1、化審法:2-509、化管法:1-66第一種指定化学物質、MW:100.12、融点:-14℃、沸点:188℃、引火点:71-72℃、船舶法・航空法:毒物。無色または淡黄色液体で水、アルコール、アセトンに易溶。比較的不安定で、加熱すると重合、酸化によってグルタル酸に変化。生物蓄積しないが、気道、皮膚に刺激性。

1〜5% Glutaraldehyde固定液 毒性

グルタールアルデヒド(GA)はアルデヒド基を2つ有しており固定力が強い。微細構造の形態保持に優れているほか多糖類の保存性が良く、1〜5%水溶液が電顕用の前固定液として用いられる。しかし、組織内浸透力が弱く、通常組織試料は1mm角ほどの大きさまでとし、約1〜2時間冷温(4℃)固定される。

Karnovsky(カルノフスキー) 固定液(変法の一例) 毒性

25% Glutaraldehyde 2ml
Formalin※ 2ml
0.2M Phosphateate buffer pH7.4
(または0.2M Cacodylate buffer※)
25ml
D.W. 21ml
GAは固定力は強いが浸透力が弱いので、この点を補うためにホルムアルデヒドと混合して用いられる。この混合固定液はKarnovsky固定液と呼ばれる。Karnovskyの原法(Karnovsky, MJ: "A formaldehyde-glutaraldehyde fixative of high osmolality for use in electron microscopy.":J Cell Biol, 27:137A, 1965)では5%GA+4%PFAの混合であったが、変法としてさまざまな処方があり、殆どは原法の約1/2濃度となっているので「half Karnovsky液」などと呼ばれることもある。
(※ホルマリンよりもPFA、リン酸緩衝液よりもカコジル酸緩衝液の方が優れている点があることも事実であるが、用途次第ではそれほど気にしなくて良い場合も多い)

酸を含む固定液
酸には強い蛋白凝固作用があるが、組織障害性も強い。ピクリン酸、タンニン酸、オスミウム酸、氷酢酸、三塩化酢酸(トリクロロ酢酸:TCA)、クロム酸などやその塩がアルデヒド系固定液と混合または併用されて補完的に使用されることがあるが、単独で固定に用いられることは少ない。

ピクリン酸 C6H3N3O7 Picric acid、2,4,6-トリニトロフェノール。劇物、危険物:第5類ニトロ化合物、国連番号0154 UN Hazard class 1.1D(爆発性)、融点:122℃、沸点:325℃、MW:229.1。黄色針状結晶で水・アルコールに可溶。引火点:150℃、発火点:300℃。熱、衝撃により爆発的に分解することがある。(特に乾燥させると危険であり、通常10%以上水を含む状態で保存)金属容器を用いず直射日光を避け冷所に保存。

Bouin (ブアン)固定液 毒性酸化性

組織浸透力の強いピクリン酸を加えた固定液。アルデヒド系固定液で抗原性は安定しているが分子量が小さいため移動、流失が起こりやすいポリペプチドホルモンの検出などに適している。
標準的な固定条件は4℃6〜12時間(腎や睾丸生検などでは1〜2時間)程度。浸透力の強い分、過剰固定により組織が硬化しやすいので室温下では短めに。なお、固定後の組織は黄色に着色するので、水洗せずに70%アルコールに浸漬して色を落とす。

飽和ピクリン酸水溶液 75ml
ホルマリン 25ml
氷酢酸 5ml
15:5:1の割合(1551)と覚えると良いが厳密でなくてもよい。睾丸生検などで用いられていたこの処方ではホルマリン濃度が20%を超えるので、濃度を下げたい場合は代わりに酢酸の量を増やす。飽和ピクリン酸水溶液は、褐色瓶に充分量(完全に溶解してしまわないように)のピクリン酸を入れた上に蒸留水を加えて攪拌、放置、沈殿させ、上澄み液を使用する。上澄みを採取する際には沈殿したピクリン酸が混ざらないように注意。上澄みを採取した分、蒸留水を補充すれば沈殿したピクリン酸がなくなるまで長期に渡って利用できる。

Zamboni (ザンボニ)固定液 毒性酸化性

ホルマリンに替えPFAを用いたブアン固定液の改良版。標準的な固定条件は4℃6〜12時間。Bouin固定と同様に固定後は水洗せず70%アルコールへ。

Paraformaldehyde 2g
飽和ピクリン酸水溶液(要濾過) 15ml
0.15M燐酸緩衝液(pH7.3) 最終100ml
PFAはそのままではなかなか溶解しない。60℃くらいで加温し、攪拌しながら2.52%NaOH水溶液を滴下すると早く溶解する。 PFAが完全に溶解してからbufferを加えて全量を100mlに調整する。bufferは別に0.15Mに厳密にこだわらなくてもよい。

タンニン酸 C76H52O46 Tannic acid
タンニン Tannin は加水分解で多価フェノールを生じる収斂性の植物成分の総称で、皮革をなめすための「鞣皮剤」として昔から使われてきた。タンニン酸はタンニンの加水分解によって生じる有機酸で、多数のヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物で分子量の大きさに幅がある。蛋白と強固に結合するので、アルデヒド系固定液と混ぜて可溶性蛋白やポリペプチドの固定に使用されることがある。

TPG(Tannic acid-Paraformaldehyde-Glutaraldehyde)固定液 毒性

2% Paraformaldehyde 9.8ml
25% Glutaraldehyde 0.2ml
Tannic acid (使用直前) 0.1g

オスミウム酸 OsO4 Osmic acid (四酸化オスミウム Osmium tetroxide) MW:254.2、融点 40.5 ℃、沸点 130 ℃。国連番号 2471 UN Hazard Class:6.1(毒物)、安衛法:通知物質、航空法・港則法:毒物。
沸点よりかなり低い温度で気化・昇華し、特有の刺激臭を持つ。強力な酸化剤であり、毒性が強く皮膚への腐食性を示す。これ自体は不燃性であるが可燃物の燃焼を促進する。

細胞内微細構造の保存性が良いが、組織内浸透力が弱いので通常、組織は1mm角ほどの大きさにする。また、蛋白の高次構造やアクチンフィラメントの破壊作用がある。電子顕微鏡用の化学固定剤として、グルタールアルデヒド固定の後(後固定剤)に1〜2%溶液が使用される。抗原性への影響が強く、免疫組織化学用には不適だが、脂肪に対する固定力が強いので、ホルマリン固定後にオスミウムで後固定すればパラフィン切片でも脂肪を検出できる。
2%オスミウム液 毒性

四酸化オスミウム OsO4 1.0g
精製水 50ml
四酸化オスミウムは、4%程度の溶液で市販されているものもあるが、一般には結晶1g入りアンプルが用いられる。(1)直前にアンプルカッターなどでアンプルに傷を入れてから、(2)精製水を一部入れた褐色瓶などの密栓容器に入れ、(3)容器ごと強く振って容器の中でアンプルを割って溶解(溶けにくいので容器ごと60℃くらいで湯浴すると良い)、(4)残りの精製水を加えて調整。(メスシリンダー内で行うとより正確であるが扱いにくい。そのまま冷蔵庫で保管できる容器の方が便利。)1%濃度で使用する場合は燐酸緩衝液(pH7.4)などで希釈後に使用。はじめから100mlの精製水で溶解しても良いが、精製水が多いほどアンプルを割りにくくなる。なお、アンプルは事前にラベル等を剥がし、表面を洗浄しておき、皮脂がつかないように手袋を着用し、ドラフト内で操作すること。

※保管は冷蔵庫内。気化しやすいので栓の周囲をパラフィルム等でシールする。1年程度は保存可能だが、液が黒くなると使用できなくなる。(容器が汚染されていると液が黒くなるのが早い)なお、長期になると冷蔵庫内も徐々に薄黒くなってくるので、冷蔵庫内にオスミウム専用のボックスなどを用意すると良い。

トリクロロ酢酸 C2HCl3O2 Trichloroacetic acid(TCA)三塩化酢酸、劇物、第3特定化学物質第2類、危険物:第1類第3種酸化性固体、化審法:2-1188  国連番号1839 UN Hazard class 8、化管法:第1種指定化学物質、安衛法:通知物質、船舶法・航空法:腐食性物質。強い腐食性をもつ無色の潮解性結晶、水に易溶で強酸性を示し、アルコール、エーテルに可溶。融点:58℃、沸点:198℃ MW:163.4。酢酸のメチル基の3つの水素原子が全て塩素原子に置換されているため電離度が高く、通常の酢酸が弱酸であるのに対してTCAは強酸となる。生化学的な変性剤として蛋白を変性させる。脱灰液として用いられることもあるが、特殊な固定液として5〜10%水溶液が用いられる。

(その他の用法として、AZAN-Mallory染色においてアゾカルミンGの染色性が悪い場合に、10%TCAと10%重クロム酸カリの等量混合液で10-20分ほど媒染する方法もある)

重クロム酸カリウム K2Cr2O7 Potassium dichromate 二クロム酸カリウム、劇物、第3特定化学物質第2類、危険物:第1類第3種酸化性固体、化審法:1-278 国連番号3288 UN Hazard class 6.1、廃棄物処理法、下水道法、水質汚濁防止法などの規制物質。橙赤色柱状結晶で水に可溶、アルコール不溶。 融点:398℃ MW:294.2。

Orth(オルト)固定液 毒性

重クロム酸カリウム K2Cr2O7 2.5g
硫酸ナトリウム Na2SO4 1g
精製水 100ml
用事に ホルマリン 10ml
[参考] 酸化力が強くアルデヒドをカルボン酸に変えるのでホルマリンの添加は用事に行う。
副腎髄質のクロム親和性細胞を褐色に染める固定液として歴史的に非常に有名なので敢えて記載したが、六価クロムは取扱い者にも環境にも非常に有害であり、排液処理※※も大変なため現在では殆ど使用されていない。
※※ 硫酸を加えてpH3以下にし、亜硫酸水素ナトリウムNaHSO3などの還元剤を少量ずつ攪拌しながら液が緑色になるまで添加して三価クロムに還元した後、5%程度のNaOHを加えてpH7.5-8.5に調整し放置、不溶性の水酸化クロムCr(OH)3として沈殿させる。

過マンガン酸カリウム KMnO4 Potassium permanganate、 危険物:第1類第1種酸化性固体、化審法:1-446 国連番号:1490 UN Hazard class 5.1、化管法:第一種指定化学物質、安衛法:通知対象物質、特定麻薬向精神薬原料(麻薬及び向精神薬取締法施行規則別表第三)。 融点:240℃ 、MW:158.0。皮膚・粘膜への腐食作用があり、濃硫酸と混合すると爆発性の7酸化マンガン、塩酸と混合すると塩素ガスを発生する。水、アセトン、アルコールなどに可溶。水溶液は赤褐色で、希溶液は俗にカメレオン水 Chameleon solutionという。

過マンガン酸カリウムは強力な酸化剤として知られ、グルタールアルデヒドが1960年代頃から使用され出すまではオスミウムとともに電顕用固定液として用いられていた。単独では蛋白、多糖類などの変性・変形が強く、オスミウム固定後に0.6〜3%濃度(酢酸緩衝液)で使用される。膜構造の保存性が良いがリボゾームは固定されない。

金属塩を含む固定液
強い酸化作用がある金属塩を固定液に加えたものでは塩化第二水銀(昇汞:HgCl2)を含むZenker(ツェンカー/ツェンケル)固定液などが昔から有名なほか、海外の文献で時々みかけるB5固定液も水銀を含んでいるが、排液の処分や、甘汞結晶を除去する「脱昇汞」処理のため今日では殆ど使われていない。しかし免疫組織化学の利用が多くなるにつれて抗原性保持のための亜鉛(Zn)などの効果も最近では着目されている。

塩化第二水銀 HgCl2 Mercuric chloride 昇汞、毒物、第3特定化学物質第2類、薬事法:毒薬、指定医薬品、化審法:1-226 国連番号1624 UN Hazard class 6.1、廃棄物処理法、下水道法:規制物質 水質汚濁防止法:有害物質。白色透明結晶で水に可溶。LD50:1mg/kg(mouse経口)、融点:276℃ MW:271。

Zenker (ツェンカー)固定液 毒性

塩化第二水銀 HgCl2 5g
重クロム酸カリウム K2Cr2O7 2.5g
硫酸ナトリウム Na2SO4 1g
精製水 100ml
使用事に上記95mlに対して 氷酢酸添加 5ml
[参考] Friedrich Albert von Zenker (1825-1898)が1894年に提唱して以来という古典的で有名な固定液だが、昇汞を含むうえに重クロム酸カリも含むため今日ではあまり使われることはない。 なお、この固定液を使用すると「ツェンカー結晶」とも呼ばれる茶〜黒色の沈殿物が標本上に多数生ずるので脱パラフィン後に Lugol(ルゴール)液(ヨウ素とヨウ化カリウムの水溶液)に5〜15分ほど漬けてよく水洗した後、チオ硫酸ナトリウム液に入れる脱昇汞処理が必要。

Helly (ヘリー)固定液 毒性

[参考] ツェンカー・ホルマリン固定液とも呼ばれるように、上述のツェンカー固定液の使用時に氷酢酸に代えてホルマリンを5ml添加する。

B5固定液(B-5 fixative) 毒性

塩化第二水銀 HgCl2 6g
酢酸ナトリウム NaC2H3O2 1.25g
精製水 100ml
使用事に上記に ホルマリン添加 10ml
[参考] ホルマリンの添加は使用事に行う。試薬調整に際して金属の薬匙などは使用してはいけない。
海外文献に時々出てくるので参考までにASCPのマニュアル内容を記載したが、毒物である昇汞を含んでおり国内では殆ど使われていないし、環境に対して責任のもてない物質は使用すべきではない。

酢酸亜鉛 Zn(CH3COO)2・2H2O Zinc acetate 劇物、化管法:第一種指定化学物質、化審法:2-693、無色または白色粉末で水、アルコールに可溶、不燃性
塩化亜鉛 ZnCl2 Zinc chloride 二塩化亜鉛、劇物、国連番号233 UN Hazard class8、化管法:第一種指定化学物質、化審法:1-264、白色粉末で水、アルコールに易溶、潮解性、MW:136.3
硫酸亜鉛 ZnSO4 Zinc sulfate、化審法:1-542、無色結晶で水、グリセリンに可溶、アルコール不溶。不燃性、MW:161.45

亜鉛固定液 Zinc(JB) fixative 毒性

酢酸カルシウム Ca(CH3COO)2 50mg
酢酸亜鉛 Zn(CH3COO)2・2H2O 500mg
塩化亜鉛 ZnCl2 500mg
1Mトリス塩酸緩衝液 pH7.4 100ml
免疫組織化学での抗原保存性に優れたB5固定液に変わるMercury freeの固定液として開発された固定液(Beckstead J ;J.Histochem.Cytochem,42,8,1994)ここに挙げた処方はBD bioscience社のデータシートによるが、「IHCWORD」(http://www.ihcworld.com/)で別名「JB固定液」として紹介されている処方ではトリス塩酸緩衝液のモル数は0.1Mで、固定時間は24〜48時間となっている。
なお、上記処方ではpHは6.5〜7くらいになるが、アルカリを用いてpHを調整すると亜鉛の沈殿を生じることがあるので少しくらいpHが低くてもそのまま使用されているようである。浸透力の弱い点(3mm厚の組織で8〜12時間)が欠点。

※Formalin fixed paraffin embedding(FFPE)sectionと明記してあれば別だが、「パラフィン切片でも反応する抗体」と言う場合、それは必ずしも「ホルマリン固定組織でも反応する」という意味とは限らない。本邦ではホルマリン単独固定が一般的なために当然視しがちだが、海外メーカーの製品ではZinc fixativeを前提としている場合があるので注意が必要。

亜鉛ホルマリンZinc Formalin固定液 毒性

10%緩衝ホルマリン液 100ml
硫酸亜鉛 ZnSO4 1〜2g
免疫組織化学用に「Zinc formalin」の名称で市販されている製品も幾つかあるが、それらの具体的な処方については不明。 具体的に亜鉛がどのように抗原性の保存に効果をもつのかは明確ではないが、簡単な方法として緩衝ホルマリン固定液に少量(1g/100mlほど)の硫酸亜鉛や塩化亜鉛を加えるだけでも多少の効果は期待できる可能性はある。本邦での使用経験はまだ少なく保証の限りではないが、現在当然のことのように行われている加圧熱処理のような強引な「抗原賦活法」についてはそろそろ見直すべき時期にあるのかもしれない。
亜鉛ホルマリンZinc Formalin(AZF)固定液 毒性

塩化亜鉛 ZnCl 12.5g
ホルマリン原液 150ml
氷酢酸 7.5ml
精製水で 最終1000ml
「検査と技術」37(5),425-429,2009(医学書院)で、川崎医科大学の小林らが骨髄生検用の「AZF固定液」としてロンドンのHammersmith病院の処方を紹介していたので記載した。固定時間は20〜24時間とある。

二酢酸銅(II) Cu2(CH3COO)4 Cupric acetateともいう。CAS:142-71-2、劇物(無機銅塩類)、安衛法:通知対象物(政令番号379)、化管法:第一種指定化学物質1-272、化審法:2-693、暗緑色結晶状粉末で水・アルコールに可溶、不燃性。融点115℃、MW:181.63。 酢酸銅(copper acetate)には酸化数の違いにより(I)と(II)がある。酢酸銅(II)は触媒や酸化剤として用いられており、草木染めの媒染剤としても利用されている。

Hollande固定液 毒性酸化性

酢酸銅(II) Cu(CH3COO)4 2.5g
精製水 100ml
ピクリン酸 4g
ホルマリン 10ml
氷酢酸 1.5ml
[参考] ASCPのマニュアルにあるので一応掲載した。「HE染色に”輝き”を与える」という説明が付いていたが、さてどうだろうか。


脱水剤・有機溶媒系固定液
アルコール/アセトン/クロロホルム系の固定液は強力な脱水と脂質溶解により蛋白を凝固させる。剥離細胞や培養細胞などを短時間で固定する際や、水溶液であるホルムアルデヒド系固定液では組織外に溶出するような水溶性物質の保存に優れているが、脂質分析には適さない。蛋白分子に与える化学的変化は乏しいものの、組織の強い収縮硬化をもたらすため組織用の固定液としては粘液の分析や血液細胞の膜表面抗原の検出など特殊な用途に使用されることが多い。なお、気化しやすい引火性薬品を使用するので火気に注意。

        
薬品名 化学式 毒劇法 消防法 安衛法 沸点爆発限界 引火点発火点LD50(ラット経口)
エチルエーテル (C2H5)2 - 4類特殊引火 - 34.6℃ 1.9%−48% -45℃ 180℃ 1700mg/kg
メチルアルコール CH3OH 劇物 4類アルコール 2種有機 64.6℃ 7.3%−36% 11.1℃ 343℃ 5628mg/kg
エチルアルコール C2H5OH - 4類第1石油 - 78.3℃ 3.3%−19% 12.8℃ 392℃ 7060mg/kg
アセトン C3H6O - 4類第1石油 2種有機 56.1℃ 2.6%−13% 17.8℃ 538℃ 5800mg/kg
クロロホルム CHCl3 劇物 - 1種有機 61.2℃ - - - 908mg/kg
(* LD50については試薬各社のMSDSを参考にした)

95%エタノール単独固定液 引火性

主に細胞塗抹標本でPapanicolaou染色などを行う場合に一般的に用いられている固定法。細胞診では「湿固定」と呼ばれ通常使用される。純エタノールに蒸留水を加えて95%にした液に塗抹標本を浸漬する。(この際、できるだけ一気に浸漬すること。途中で止めると液面の部分では細胞が剥離する。) 99%以上の純アルコールではむしろ固定力が弱いので注意。標準的な固定条件は室温下で10〜20分程度。

メタノール単独固定液 毒性引火性

主に血液などの細胞塗抹標本でGiemsa染色を行う場合に一般的に用いられている固定法。塗抹標本を冷風で急速乾燥させた後、直接固定液に浸漬する。(この際、できるだけ一気に浸漬すること。)標準的な固定条件は室温下で数分程度。エタノールよりも脱水力が強く細胞・組織の収縮変性はかなり強くなるため、組織や乾燥させていない細胞に対してはあまり使用されない。

エーテル・アルコール等量混合液 引火性

エーテルとエタノールを等量(50:50)混合したもの。昔は細胞診の固定液として常用されていたが、エーテルの毒性と揮発性、引火性のため現在ではあまり使用されていない。

アルコール・ホルマリン混合液 毒性引火性

95%エタノール9容とホルマリン1容を混合したもので、要するに10%ホルマリン固定液の水をアルコールに代えたもの。組織に対してはエタノールは80%程度の方が収縮が少ない。蛋白の固定速度が速いので小さな組織なら4〜5時間、標準的には1〜2日程度までにしておかないと組織が硬化して切り難くなることがあるので殆ど使われていないが、固定完了までに糖質の溶出を防ぎたい場合などに向いている。 ちなみに、メタノールを用いると組織の収縮はさらに強くなる。

FAA(Formalin-Acetic acid-Alcohol)固定液 毒性引火性

ホルマリン原液 5-10ml
氷酢酸 5ml
95%エタノール 45-50ml
精製水を加え 最終100ml
FAAは植物用の固定液として使われている。植物組織は含水、含気量が多いのでアルコール系固定液で陰圧下、室温1日以上固定すると良い。酢酸を入れると核蛋白の固定が良くなることは知られており、前述のアルコール・ホルマリン混合液に5%程度の氷酢酸を加えて用いられることもある。

Davidson (Hartmann)固定液 毒性引火性

10%緩衝ホルマリン 22.2ml
99%エタノール 32.0ml
氷酢酸 11.1ml
精製水を加え 最終100ml
英国のWilliam McKay Davidsonの名を冠してデビットソン固定液と呼ばれるが、米国ではジョンホプキンス大(当時)のWilliam H. Hartmannの名を冠してハートマン固定液とも呼ばれる。動物では眼球や睾丸、血液細胞の固定に使われるほか、自己融解の早い魚類の固定に適していると言われるが、内容的にはFAAのエタノール濃度を下げ、ホルマリン濃度を高くしたものである。

※ASCPのSurgical pathology-histology staining manualで「Hartman固定液」として紹介されている処方では、95%アルコール:ホルマリン:氷酢酸:精製水の比率が 3:2:1:3となっている。また、リンパ節組織での固定時間として1〜24時間が推奨されている。変法も多く、アルコール濃度が95%のものから99%のものもあれば、10%ホルマリンではなくホルムアルデヒド37%含有のホルマリン原液を使用している文献もある。固定液全般について言えることだが、要するに重要な成分さえ忘れなければ細かい処方については多少アバウトでも良く、扱う組織材料に合わせて加減してみるということである。

FPA(Formalin-Propionic acid-Alcohol)固定液 毒性引火性

ホルマリン原液 10ml
プロピオン酸 5ml
95%エタノール 50ml
精製水を加え 最終100ml
あまり使われていないと思うが、FAAの酢酸の代わりにプロピオン酸を用いたものもある。

Carnoy (カルノア)固定液 毒性引火性

100%エタノール 60ml
クロロホルム 30ml
氷酢酸 10ml
6:3:1の割合(631)と覚えると良い。アルコールぺースなので固定後は水洗せずに70%アルコールに移し、そのまま脱水過程に入る。直ちに脱水過程に移れない場合(ちょっと保管しておく場合)は70%アルコール中で保管。(固定力が強いので固定液に漬けたまま過剰に放置しない)

Farmer (ファーマー)固定液 引火性

100%エタノール 75ml
氷酢酸 25ml
カルノア固定液の処方からからクロロホルムを除き、アルコールと氷酢酸を3:1の割合で混合したもの。

※昔のAFIPの染色マニュアルで「Clarke(クラーク)固定液」として紹介されているものと同じ。植物細胞などの固定にも使われる簡便な固定液だが、培養細胞の固定にも使え、カバースリップ培養やスライドカルチャーなら10分程度で固定できる。

Methacarn (メタカン)固定液 毒性引火性

100%メタノール 60ml
クロロホルム 30ml
氷酢酸 10ml
要するにカルノア固定液のアルコールをメタノールにしたもの。

冷アセトン固定液 引火性

アセトンの脱水固定力を利用したもので、血液細胞の乾燥塗抹標本や培養細胞(特に浮遊細胞)などに対して使われることが多く、通常冷蔵庫内(4℃)であらかじめ冷やしておいたアセトン液の中に5分〜30分入れて固定することが多い。 組織の場合は、通常は未固定の新鮮凍結組織から作製した凍結切片を固定(風乾後)する際に使用されたりする。組織への収縮硬化変性が大きく標本作製に困難をきたすため、組織そのものを直接アセトンに漬けることは少ないが、様々な分子生物学的分析に供するためにAMeX法やHOPEなど工夫された方法がある。他にホルマリンやPFAなどのアルデヒド系固定液と混ぜて両方の利点を求めた固定液もある。

AMeX (Acetone-Methylbenzoate-Xylene) 処理法 毒性引火性

固定そのものは冷アセトン固定なのだが、収縮など組織に与える影響を少なくするために脱水処理の過程を工夫したもの。

1.冷アセトン (-20℃) -20℃ 一晩
2.冷アセトン (4℃→室温) 室温 15分
3.アセトン 室温 15分
4.メチル安息香酸 室温 15分×2
5.キシレン 室温 15分×2
6.パラフィン 2時間以上

HOPE (HEPES-Glutamic acid buffer mediated Organic solvent Protecion Effect) 法 毒性引火性

固定そのものは冷アセトン固定なのだが、HEPES(4-2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジンエタン-1-スルフォン酸)とグルタミン酸から成る保護液(HOPE I 液および II 液)に固定前に浸漬およびアセトンに添加することで収縮など組織に与える影響を少なくしたもの。 保護液は特許品で、国内でも「HOPE固定液」と称して市販されており、用法についてはDCS GmbH(Hamburg, Germany)のHOPE fixierung protocols we trustで次のように紹介されている。

1.HOPE I 液  0-4℃ 1-3晩
2.冷アセトン 100ml : HOPE II 液 0.1ml 0-2℃ 2時間
3.冷アセトン on ice 2時間 X 2
4.パラフィン 54-55℃ 一晩

BFA (Buffered Formalin-Acetone) 固定液 毒性引火性

10%緩衝ホルマリン 40ml
アセトン 60ml

4%PFA-Acetone 固定液 毒性引火性

10%PFA 40ml
アセトン 60ml
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(毒物劇物製造業登録番号 兵製第143号 毒物劇物一般販売業登録番号 神保049TA0022号)